仕入先の倒産により商品の納入が遅延し、資金繰りが悪化したことにより倒産した事例
債務整理方法 | 借金総額 |
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自己破産 | 1,700万円⇒0円 |
背景
本件の会社は輸入販売業を営んでいた会社です。もともとは、本件会社の社長であるAさんが、個人事業として、海外の工場で製造された商品を個人で輸入して、メーカーなどに販売していました。その後、Aさんは、株式会社を設立し、上記個人事業を会社に引き継がせました。
この会社は、初年度で年商3,000万円近くを売り上げ、それから3年後には年商5,000万円を達成するなど、順調に規模を拡大していきました。他方で、会社の売掛金の回収と買掛金の支払との時期の関係で、一時的に運転資金が不足することが多々あり、金融機関からの融資を受けてこれに充てていました。ただ、受注自体は途切れることがなかったため、金融機関への返済が滞ることはありませんでした。
ところが、平成20年にリーマンショックが起きたことで、会社の受注件数が大幅に減り、受注単価も低くなっていきました。そのため、会社の売上も毎年減少していきました。さらに悪いことに、同じタイミングで、商品の製造をしていた海外の工場が倒産してしまい、取引先に対して納期までに商品の納入ができなくなってしまいました。Aさんは、別の工場で商品の製造を行えるよう手配しましたが、結局、納期には間に合いませんでした。
これにより、会社は主要な取引先を失い、会社の資金繰りは一気に悪化してしまいました。そして、Aさんは「今後の会社経営は非常に厳しいのではないか」と強い不安を感じるようになり、債務整理の相談をするため、当事務所へご相談にいらっしゃいました。
対応
本件会社の自己破産の準備を進めていると、海外の工場が倒産した時、在庫品や設備関係の回収ができず、倒産のドタバタで本件会社の資産の一部が行方不明になっていることがわかりました。しかし、保管場所が海外であり、現地に行くだけでも時間とお金がかかってしまうなどの事情により、これら会社の海外資産については調査及び回収は不可能であると判断しました。そして、裁判所と破産管財人にもその旨を報告しました。
また、破産申立書を作成するにあたって、預金口座の調査を行っていたところ、会社の営業を停止させた時点において、会社名義の預金口座から100万円を超える金額の引き出しがありました。自己破産の手続において、会社の営業停止直前や弁護士に依頼する直前の口座の入出金については、裁判所や破産管財人も厳しく審査するため、注意が必要です。
弁護士がAさんに確認したところ「従業員の最後の給料の支払いに充てた」との回答でした。そこで、弁護士が会社の会計帳簿から各従業員の給与の月額を割り出したところ、その金額と実際に支出された金額がほぼ一致したため、裁判所と破産管財人にも従業員に対する給与の支払いであると報告することとなりました。
結果
行方不明となっていた海外資産に関しては、Aさんの知人が現地に今もいるとのことだったので、改めて確認してもらおうとしましたが、実際に確認することはできませんでした。そして、破産申立までの調査活動を、裁判所と破産管財人に報告したところ、破産管財人は「海外資産の調査は不可能」と判断し、それ以上の調査を断念しました。なお、本件では、Aさんに対して、当該海外資産を散逸させた責任を追及される可能性もありましたが、Aさんの破産管財人に対する協力的な姿勢が評価され、最終的にAさんは責任追及を受けることはありませんでした。
また、会社の営業停止直前に預金を引き出したことについても、破産管財人は、Aさんから聴取した内容や会計帳簿等から、使途は従業員に対する給与の支払いであると認定し、不当性はないとの判断になりました。
そして、結果的に、本件においては、債権者から異議を出されることもなく、無事に、第1回目の債権者集会で手続は終了し、会社名義の借金1,700万円は0円になりました。