刑事事件

再犯しやすい万引き(窃盗罪)の量刑は?

「万引き」という言葉は、軽く使われがちですが、「窃盗罪」にあたる犯罪行為です。
メディアでは、高齢者や普通の主婦が万引きをしてしまう事案などがよく紹介されます。

万引きは、再犯率が高い犯罪と言われています。では、万引きを繰り返してしまうと、その刑罰は一体どうなるのでしょうか。

1.万引き(窃盗)の再犯の刑罰

(1) 常習累犯窃盗罪

窃盗は、再犯率が高いため、刑法とは別に、「盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律」という法律があり、その中に「常習累犯窃盗罪」が定められています。

第3条
常習として前条に掲げたる刑法各条の罪又は其の未遂罪を犯したる者にして其の行為前十年内に此等の罪又は此等の罪と他の罪との併合罪に付三回以上六月の懲役以上の刑の執行を受け又は其の執行の免除を得たるものに対し刑を科すべきときは前条の例に依る

つまり、下記のような場合には、常習累犯窃盗罪になります。

  • 過去10年の間に、窃盗罪または窃盗未遂罪で6月以上の懲役刑(執行猶予付きを含む)を「3回以上」受けた者であること
  • 常習として窃盗を行ったこと

常習累犯窃盗罪にあたる場合には、刑罰は、「3年以上の有期懲役(3年以上20年以下)」になります。罰金刑はありません。
「常習」かどうかは、過去の判例などに照らし、裁判官が判断することになります。

(2) 刑法上の「再犯」規定

刑法には、「再犯」の規定があります。刑法に規定されている「再犯」は、窃盗に限らず、前刑が他の犯罪である場合にも適用されます。

刑法第56条
1 懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする

つまり、刑法上の「再犯」になるのは、下記の場合です。

  • 前科が、懲役刑(実刑)だった場合、その刑期を終えた後、5年以内にさらに罪を犯したこと又は科が執行猶予付き判決だった場合に、その執行猶予期間が終わってから5年以内にさらに罪を犯したこと
  • 今回の刑が有期懲役刑であること

刑法57条
再犯の刑は、その罪について定めた懲役の2倍以下とする

窃盗罪は、「10年以下の懲役(1月以上10年以下の懲役)」か「50万円以下の罰金(1万円以上50万円以下の罰金)」です。
それが、再犯になると、「1月以上20年以下の懲役」か「1万円以上50万円以下の罰金」となります。

なお、前刑が「罰金刑」だった場合には、刑法56条の「再犯」にはあたりません。
しかしながら、2回目となると、前回の反省がないということで情状が悪いので、ほとんどの場合、前回よりも重い刑になる可能性が高いです。

刑事手続きにおいて、情状が考慮されるのは2回です。
1回目は、検察官が、起訴にするか、不起訴にするか、略式請求にするかを判断するときです。2回目は、起訴されて裁判を受け、裁判所が量刑を決めるときです。

そこで、前回は罰金刑でも、今回は起訴される可能性が高くなるということです。

2.執行猶予中の再犯

窃盗罪で執行猶予付き有罪判決を受けたにもかかわらず、その執行猶予中にまた窃盗を行った場合、執行猶予が取り消される可能性が高くなります。

執行猶予が取り消されると、前回の判決で宣告されていた懲役と今回の窃盗による懲役とが合算され、合計で長期間にわたって刑務所に収容されることになります

前刑の執行猶予が取り消されるのは、下記のような場合です。

刑法第26条(必要的取消)

  • 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき
  • 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑について執行猶予の言渡しがないとき
  • 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき

刑法第26条の2(裁量的取消)

  • 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき
  • 第25条の2第1項の規定により保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が悪いとき
  • 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その執行を猶予されたことが発覚したとき

そして、執行猶予中に犯してしまった今回の犯罪については、さらに執行猶予を獲得することは非常に困難なのですが、下記のような特別な条件を満たせば、再度の執行猶予を得ることができます。

再度の執行猶予(刑法25条2項)

  • 前に禁錮以上の刑に処されて、執行猶予になったことがある
  • 今回の刑の言い渡しが、「1年以下の懲役」か「1年以下の禁錮」である。
  • 情状に特に斟酌すべきものがある
  • 保護観察付執行猶予中の犯罪ではないこと

3.他の日の万引きが発覚した場合

万引きで逮捕された後の捜査で、これまでの他の万引きまでバレてしまった場合、余罪の発覚となります。

常習的に万引きをする人は、同じ店で万引きしていることが多いため、他の日の防犯カメラの映像によって、他の日の万引きがバレることはあります。

例えば、本の万引きの場合、カメラの映像とブックオフなどの古本買取業者への買取依頼の履歴・ヤフーオークションへの出品の履歴などを照合すれば、他の万引きを特定できることもあるからです。

そして、法的には、1回の万引きごとに1つの犯罪が成立します。

例えば、7月1日の万引きと7月8日の万引きが発覚すると、2つの犯罪が成立します。
また、同じ日、例えば、7月2日の朝に1回、夕方に1回万引きしていたとしても、2つの犯罪です。

そして、2個以上の犯罪で処罰される場合には、併合罪となります。

刑法第45条
確定判決を経ていない2個以上の罪を併合罪とする。

刑法第47条
併合罪のうちの2個以上の罪について有期の懲役又は禁錮に処するときは、その最も重い罪について定めた刑の長期にその2分の1を加えたものを長期とする。ただし、それぞれの罪について定めた刑の長期の合計を超えることはできない

刑法第48条
2 併合罪のうちの2個以上の罪について罰金に処するときは、それぞれの罪について定めた罰金の多額の合計以下で処断する。

併合罪になると、窃盗罪は、「1月以上15年以下の懲役」か「1万円以上100万円以下の罰金」となります。

万引きでも、余罪が多いと情状面で不利になり、刑は重くなります。

4.弁護士に相談することのメリット

窃盗罪を繰り返してしまったときに、まず大切なことは示談です。

(1) 被害者との示談を成立

お店にはたくさんの商品が並んでいますから、少しくらい盗ったっていいだろうと、「万引き」というものを軽く考えている人も多いですが、商売をしている側からみると、「万引き」は、非常に重大な問題です。

そのため、「万引きについては、被害弁償に一切応じず、厳しい刑罰を望む」というスタンスを取っているお店もあります。
そのようなお店に対しても、お店の側の立場に立ち、誠心誠意、謝罪文を作成し、送付するなどの対応は取るべきでしょう。

被害者の被害感情は情状の中でも大きく重視されるものですから、示談が成立すれば、前科があっても、不起訴処分を得たり、執行猶予で済んだりすることもあります。
早急に弁護士に依頼して、示談交渉を開始してもらうべきなのです。

(2) 治療に関するアドバイス

お金に困っているわけではないのに万引きを繰り返してしまい、やめられないという人は、「クレプトマニア」という病気かもしれません。

「クレプトマニア」とは、経済的利得目的以外、つまり、お金に困っているからとか、換金して利益を得たいからなどの目的以外で、窃盗行為を衝動的、反復的に行う症状で、精神障害として位置づけられています。

クレプトマニアの可能性がある場合には、診断及び治療が必要です。

弁護士に相談することで、専門医での治療、カウンセリング、支援団体、自助グループへの参加などにつながることができます。

クレプトマニアは精神障害ですから、刑罰からは学べません。つまり、「刑罰を受けるのがいや」という抑止力が働かないのです。
そのため、治療によって、万引きをしたいという衝動を抑えられるようになることが必要です。

本人が病気であると認めたがらない場合には、まず、家族が専門医に相談するなどの対応を取った方がよいかもしれません。

刑事手続きにおいても、クレプトマニアの診断書の提出や治療の意思などを示し、刑罰ではなく、治療が必要であることを訴えて、不起訴処分、罰金刑、執行猶予を得るよう努力していくことになります。

5.万引きの刑事弁護は泉総合法律事務所へ

このように、「万引きを繰り返してしまう」場合は、クレプトマニアという精神疾患の可能性があります。
クレプトマニアで万引きが止められないというケースも含め、窃盗罪の再犯を犯してしまったという方やその家族は、お早めに弁護士へご相談ください。

再犯の場合であっても、弁護士のサポートにより、量刑を軽くすることができる可能性があります。渋谷区、目黒区、世田谷区、JR各線・東京メトロ銀座線、半蔵門線・東急線・京王線沿線にお住まい、お勤めの方は、泉総合法律事務所渋谷支店の弁護士にぜひ一度ご相談ください。

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