債務整理

学生がFXの追証金で自己破産する際の注意点と税金問題

学生がFXの追証金で自己破産する際の注意点と税金問題

FX取引は、大きなレバレッジをかけることで、少ない元手でも高額の利益を得ることができる投資です。

インターネットにより、専門的な知識が流通し、また、ネット証券を通じて取引が出来ることもあり、FX取引を楽しんでいる学生の方が多くなっています。やりようによっては、多額の利益を稼ぎ出すことも可能なFX取引ですが、その一方、追証金を継ぎ足すために多重債務となり、または、為替の乱高下により、莫大な追証金を請求されるリスクもあります。

特に元手の資金が不足しがちな学生の方は、ついレバレッジを大きくしてしまいがちですから、追証金リスクは大きくなります。

FX取引の追証金であっても、学生ローンやサラ金からの借金同様に、自己破産で無くすことは可能です。しかし、高額の利益を上げ有頂天になっていたところに大損失を被り自己破産することになった場合、タイミングによっては、税金が大きな問題となります。

このコラムでは、FX取引の追証金で自己破産しようとする学生の方向けに、自己破産の注意点と、税金に関し生じる問題点を説明します。

1.学生であっても、FXが原因でも、自己破産は可能

自己破産手続に年齢制限はありませんから、学生であっても自己破産をすることが出来ます。
借金を返済できない支払不能の状態であれば、基本的に自己破産は出来ますから、収入や財産が無い学生の方は、むしろ、特に向いている債務整理手続でしょう。

一方で、インターネット上で広まっている噂として、FX取引による借金や追証金などは自己破産で無くせないというものもあります。

確かにFX取引で大きなレバレッジをかけていれば、いわばギャンブルのようなものであるとして、破産法上、原則として借金が免除されない「免責不許可事由」に当たる可能性が非常に高くなります(なお、免責とは、自己破産手続で借金を免除してもらうことです)。

もっとも、現実の破産手続における、FX取引など免責不許可事由のある人の取り扱いは、法律上のものとは異なっています。他の事情を含めた総合的な判断に基づいて免責を認める「裁量免責」により、免責不許可事由があるほとんどの人が、借金を免除してもらっているのです。

ただし、あまりに悪質な場合には、免責許可決定がされないことがあることも事実です。

FX取引が借金などの原因であるというだけでは、悪質とされる恐れは低いでしょう。しかし、あからさまに反省しておらず、手続の中で不誠実な態度を取れば、話は別です。

裁量免責で考慮される事情の中でも、特に重要なものの一つが、借金を反省していて、免責してからの生活を立て直せると言えるかどうかだからです。

資料収集や裁判所での面談などは面倒でしょうが、しっかりと行ってください。弁護士に相談して以降に、またFX取引に手を出すことは論外です。

免責不許可事由があると、破産管財人という人が選任され、FX取引履歴はもちろん、銀行口座や郵便物などあらゆるものを調査し、不正が無いか確認されます。言い逃れは出来ません。

また、他の免責不許可事由、特に債権者を害するようなことをしないことも重要です。早くに弁護士に相談して、どのようなことをしてはいけないのかをしっかり確認しましょう。

すでに、詐害行為や偏波弁済をしてしまっていても、正直に説明して手続に協力すれば、新たな免責不許可事由も含めてしっかり反省したと評価してもらえます。

ただし、配当のため処分されないようにと、金目のものを隠すと、高確率で一発アウト、下手をすれば犯罪です。

2.学生が自己破産するときの、全般的な注意点と対策

自己破産できるとしても、デメリットが大きいのではないかと不安になることでしょう。

税金についての説明の前に、主なデメリットに関する注意点と対策を、ざっと説明しておきます。

(1) 身の回りの人への影響や関係

官報に自己破産したことは掲載されますが、それにより周囲に知られてしまうことはまずありません。また、後述する財産処分や資格制限も、家族が対象となることはありません。

もっとも、具体的事情によっては、注意が必要になることもあります。

(2) 親への影響など

学生が自己破産する上で最も問題となるものが、親が保証している奨学金です。

債権者平等の原則と言って、全ての債権者を公平に取り扱う必要があるため、奨学金も免責対象となってしまいます。

そのため、保証人となっている親に奨学金が一括請求されてしまいますから、必ず事前に相談をしてください。

(3) 友人関係への影響

原則として友人にばれることはありませんが、借金をしている場合や、詐害行為、偏頗弁済の相手方である場合、話は別です。

債権者平等の原則がある以上、友人でも借金をしていれば債権者ですから、手続の対象になります。

また、詐害行為や偏頗弁済があると、破産管財人が財産を取り戻しに行きます。

友人相手に詐害行為や偏頗弁済をしていれば、迷惑をかけることになります。

(4) 生活インフラについて

水道光熱費などは、滞納があっても、基本的には大きな問題にはなりません。

ただし、アパートやスマホに関しては注意が必要です。

①アパート

滞納しているアパートの家賃も、手続の対象になります。支払えば偏頗弁済、支払わなければ追い出されてしまいます。

親など家族に代わりに支払ってもらいましょう。

家賃のクレジットカード払いは出来なくなりますから、口座振替に切り替えましょう。

なお、自己破産手続の後でも、家賃の保証会社次第では、新しくアパートを借りることが出来ます。

②スマホ

滞納通信料、または、本体割賦払い残金があると、解約されてしまいます。

別の会社での新規契約も5年は無理なので、プリペイド携帯を利用してください。

(5) 財産の処分について

高額の財産を持っていれば、破産管財人により処分され債権者に配当されます。しかし、学生だと処分されるような高額財産をお持ちの事はあまりないでしょう。

もっとも、ローンの残る財産、例えば自動車は、債権者に処分されます。

ローンが残る自動車を持っている場合、専門的な問題が生じる恐れがあるので、車検証などを弁護士に提出してください。

(6) ブラックリスト

自己破産をすると、最長10年間、ブラックリストに登録されます。クレジットカードは解約され、新規カードの作成やローン契約、スマホなどの割賦払いが出来なくなります。

逆に言えば、10年経過すれば、上記制限は無くなります。将来のためにも、早くに手続を済ませてしまいましょう。

(7) バイトや就活への影響

自己破産手続中は、他人の財産を取り扱う資格や職業で働くことが制限されます。

代表例が警備員です。警備員のバイトをしている方は、他のバイトに変えましょう。

資格制限は免責許可決定が確定すれば解除されますし、自己破産を申告する必要もありませんから、就職活動への影響はほとんどありません。

さすがに銀行や消費者金融への就職については、官報を確認されてしまう可能性があるのでご注意ください。

3.税金は自己破産でも免除されない!しかも…

自己破産手続は、残念ながら万能ではありません。免責されても支払わなければならないものが、わずかですが存在します。

その中で、最も問題となるものが、まさしくこのコラムのテーマである税金なのです。

しかも、FX取引のハイリスクハイリターンさ、つまり、巨額の利益を出せる一方、その利益をはるかに超える莫大な追証金を請求される恐れがあるという性質は、税金の問題をより大きくしてしまうのです。

以下、具体的に説明しましょう。

(1) 大儲けをした翌年初頭に大損失が生じた場合の税金リスク

FX取引による利益にかかる所得税は、1月1日から12月31日までの利益もとに、翌年の2月半ばから3月半ばに納めます。この税額計算の基礎となる期間と、実際に税金を納める時期のタイミングのずれが大きな問題となるのです。

たとえば、2018年中にFX取引で大きな利益を上げていれば、2019年の2月~3月に、その利益に基づいて計算された税金を納めることになります。

しかし、2019年の1月、つまり、そもそも納税が出来ない期間にそれまでの利益を一瞬で吹き飛ばす追証金を請求されてしまった場合はどうなるでしょうか。

自己破産で追証金は無くなるにしても、税金は無くすことが出来ません。

そのため、税金を払えず、役所により「滞納処分」される恐れがあるのです。

(2) 滞納処分とは

滞納処分とは、税金を滞納している人に対して、役所が裁判所を通さずに、強制的に財産を差押えして処分することです。処分範囲は、基本的に自己破産手続よりも広いため、本当に最低限生活に必要なもの以外は根こそぎ処分されます。

限界まで財産が搾り取られ、生活が成り立たない状態になると、さすがに滞納処分は停止されます。その状態が3年続けば、納税義務から逃れられますが、もちろん、そんなことを期待してはいけません。

また、税金には一応時効がありますが、督促状を送付されれば時効期間はリセットされてしまいます。

そして、税金を納め切る時期が遅くなればなるほど、延滞金も雪だるま式に膨れ上がります。

つまり、今は学生だからといって、滞納処分により失うことが無いとしても、将来、働き始めても、延々と税金を搾り取られ続けることになりかねないのです。

4.税金が免除されなくても自己破産をするメリット

実は、税金が免除されなくても、自己破産手続をすることで得られるメリットは、非常に大きいのです。

間接的にではありますが、自己破産手続は、税金の支払負担を軽減するためにも役に立ちます。

(1) 税金以外の借金はちゃんとなくなる

裁量免責さえされれば、追証金もその他の借金も完全に無くなります

税金のように免責されないものは、他には一部の損害賠償金や、養育費など、学生ならば問題にはならないものです。

税金と同じように扱われる年金や健康保険の保険料は多少問題になるかもしれませんが、金額は大きくありません。

数十万、数百万の税金が免除されないからと言って、数千万円の追証金や借金の免除をあきらめてはいけません。

(2) 税金の分割払いがしやすくなる

税金は、自己破産など債務整理の対象となりませんし、金額が減ることもまずありませんが、役所と交渉することで、分納と呼ばれる分割払いにすることは、十分可能です。

もっとも、役所が必ず分納を許してくれるとは限りませんし、分割回数が十分なものになるとも言えません。

そこで、自己破産手続で他の借金が免除されれば、役所としても、学生であっても、アルバイトや親の援助などで、税金を納め切ってくれるだろうとして、分納協議に応じてくれる可能性が高くなるのです。

(3) 手続中は滞納処分がされない

自己破産手続をしている間は、滞納処分は不可能となります。

手続前後は可能であり、また、手続前にされた滞納処分は、手続が始まっても止まりませんが、一時的にでも税金の恐怖から逃れるためには重要です。

5.学生がFXの追証金で自己破産する場合は弁護士に相談を

本文のたとえで、2019年1月に損失が出た場合にどうなるか、と述べましたが、現実に、2019年1月3日早朝、ロスカットが間に合わないレベルの為替相場の乱高下が起き、FX取引をされている方の悲鳴が、正月早々にインターネット上に響き渡ってしまいました。

FX取引をされていた学生の方の中には、帰省してのんびり寝正月を楽しみ、遅い朝食を食べながらスマホでちょっと取引を確認した瞬間、目を疑うような金額の追証金が請求されていることに気付き、家族の前で戦々恐々とされていた方もいるかもしれません。

FX取引が原因の債務である追証金でも、素人判断で不適切なことをしない限り、自己破産で無くせる可能性はあります。

税金は自己破産で無くならないことは確かですが、将来のために税金を納め切るにも、まずは、自己破産手続を活用することが重要です。

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